搬化・定着のための指導
指導場面で、仮に偶発的に(たまたま)であっても、ターゲットとする音を出すことが出来たら、今度はその音を、出そうとして意図的に出すこと(再生)が出来るようになることを目指します。
そして、指導場面で、ある音を、注意を集中し気をつけて出そうとすれば出すことが出来るようになったら、その音をどのような条件の下でも出すことが出来るようになることや、常に誤りなく確実に正しく出すことが出来るようになること、やがて、全く無意識にあらゆる条件下で出すことが出来るようになることを目指します。
搬化・定着とは?
単音やある特定の単語の中で出せるようになった音を、語内位置や前後音などが異なる他の単語の中でも、誤りなく出せるようになることを「搬化」と言います。
例えば、単音で出せるようになった「カ」の音を、「カラス」でも「スイカ」でも「サカナ」でも出すことが出来、また、そのことばについては取り立てて練習したことがないということばの中でも、言ってみたら正しく出すことが出来たというようになることを「搬化」と言います。
また、どのような条件下でも無意識のうちに全くオートマチックに正しく出せるようになることを「定着」と言います。
定着するということは、まさに自分のものになること、身につくということです。
搬化・定着のための心得
指導場面で「カ」が出たら、直ぐ「カラス」「スイカ」「サカナ」などと意味のある言葉や文の中で使いたくなるのが、指導者や子どもの人情です。
嬉しくなって、つい、実用的なコミュニケーションに用いたくなります。
しかし、搬化や定着を効率よく確実に遂げるためには、進まない勇気・戻る勇気を持つことが肝要です。構音指導は「急がば回れ」と心得ることが大切なのです。
「急がば回れ」の理由
例えば、「カ」と「カラス」の「カ」と、「スイカ」の「カ」と、「サカナ」の「カ」は、人の耳には同じ音として聴こえます。文字で書けばいずれも同じ形で書き表される同じ文字です。
しかし、この「カ」は、物理的には全く別の音です。それどころか、同じ一人の人が、単音や同じことばの中で使った同じ文字の音でさえも、直前に出した音と同じ音として再生することは出来ません。
同じ音として聴こえる音も、実際には単語の中や文の中で前後の音に影響されて、微妙に構音点や呼気の妨げの量を変化させて作られています。このことにより、聴き手には自然なことばとして聴き取ることが出来、話し手も淀みなく流暢に話すことが出来るのです。
前後音の影響による微妙な構音点などの変化は、すべて無意識のうちに省力化のためになされています。このことを「音の渡り」と言っています。
もし、音の渡りがなかったら、話されたことばは、例えば一昔前の駅のプラットホームやワンマンバスの車内に流れるアナウンスのような、また、映画の中でロボットが話していることばのような、いかにも合成音声といった感じの、一本調子で硬くぎこちないことばとして聴こえるはずです。
自然で淀みなく一まとまりの意味のあることばとして聴き取ることが出来るのは、単語や文が、常にたった一つのやり方で構音された一音一音の連続ではないからです。
構音指導では、徹底してこの渡りの練習を積むことが必要です。
そのために、系統的な指導の計画を立て、段階的に指導を進めていきます。
もし、先を急いで「回れ」をしないと・・・
「指導場面では、ちゃんと確かな「カ」出せるのに、日常生活場面になるといつまで経ってもさっぱり以前の誤りが治らない、どうしてなの?」つまり日常会話に搬化しないという厄介な状況を招く恐れがあります。