アセスメントとは、支援を求めている対象が、これからどうしたいと思っているのか(主訴)、対象の特性がどのように主訴に関わっているのかを様々な情報をもとに総合的・多面的に判断し、見たてることを言います。コンサルタントは“相談者のニーズ”と“ニーズに応えるためにどの範囲までのアセスメントが必要か”を考えて進めることが求められます。
例えば、子どもと保護者が相談に訪れたた場合、子どものアセスメントをするために、コンサルタントは、子どもの様子の観察、心理・発達検査、保護者からの発達経過や医療歴の聴取、学習の様子や成績など様々な情報を集めます。また、学校や関係諸機関のコンサルテーションをおこなう場合には、学校や地域全体を含めたアセスメントをおこなう必要もでてきます。以下の表にアセスメントに必要な情報の例をまとめました。ここではアセスメントをどのように進めるかについて述べます。
表 アセスメントに必要な情報の例
対 象 | 項 目 | 子ども | 生育暦・家庭や学校での現在の様子などの情報、心理検査、発達検査、 医療歴および診断、学校の成績 など | 学 校 | 在籍児童数・支援の必要な子どもの数・教員の数、特別支援学級の有無、 教員の意識、管理職の意識、特別支援教育への理解 など | 地 域 | 病院・施設・訓練機関など社会資源の有無と利用のしやすさ、 各機関や行政との連携の有無、地域性 など |
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1.アセスメントの方法
1) 情報収集の方法
ここではまず、子どものアセスメントについて述べます。アセスメントの方法には観察法、面接法、検査法の3つの方法があります。観察法には子どもが自然に過ごしている状態を観察する自然観察法、時間や場面を任意に設定しておこなう構造的観察法の二通りがあり、子どもの行動(遊びの様子、他者とのかかわりの持ち方、環境への適応など)から情報を収集します。
面接法では主訴や経過など話の内容だけでなく、子ども(もしくは保護者)の話し方、質問の理解、表情、全体の印象など行動面からの情報もアセスメントには大切です。また、インテーク面接だけでなく、面接が継続されていく中でも、コンサルタントと関係性ができたところでの、子ども(保護者)の態度や話題の変化の有無などからもアセスメントはおこなわれます。
2) 検査 アセスメントをするにあたり、有効な方法の1つとして検査の利用があります。教育現場や相談場面でよく利用される検査には心理検査や発達検査があります。心理検査は、一定の手続きによっておこなわれ、刺激(検査者からの質問,図版,質問用紙など)に対してどのような反応をするかで、パーソナリティーや知能を測定しようとするものです。また発達検査については、被験者が検査を受けるものだけではなく、保護者が子どもの発達についての質問に答えるものもあります。
さらに心理検査は知能検査、性格検査、適性検査の3つに分類され、それぞれに特徴を持っています。知能検査は、学習指導や就学指導、障害の認定などのために使われることが多く、性格検査は、質問や図版などの特定の刺激を提示し、それに対する答や態度などを分析することで治療や支援に役立てるものです。適性検査は就学・就業など特定目的に対する適性を調べるもので、発達検査は主に乳幼児や小学生の発達状態を調べ、養育に役立てるものです。
知能検査にはウェクスラー式,ビネー式、K-ABCなどがあり、適性検査には、職業適性検査があげられます。性格検査については、さらに質問紙法、投影法、作業検査法に分けることができます。質問紙法には、谷田部-ギルフォード検査(Y-G)、ミネソタ多面人格目録(MMPI)、等があり、作業検査法にはクレペリン検査等があります。 投影法にはロールシャッハテスト、文章完成法テスト(SCT)、P-Fスタディ、描画法(バウムテスト、家族画など)があげられます。
以下にいくつかの検査の説明を簡単にしておきます。
[知能検査] 知能検査の代表的なものとしてウェクスラー式があります。対象年齢は5歳0ヶ月~16歳11ヶ月で「言語性検査」「動作性検査」の2種に大別される下位検査により、言語性IQ(VIQ)と動作性IQ(PIQ)、両者を統合した全検査IQ(FIQ)が求められます。言語性検査には知識、類似、算数、単語、理解、数唱、動作性検査には絵画完成、符号、絵画配列、積木模様、組合せ、記号探し、迷路の下位検査があり、VIQとPIQの偏りで個人内差の分析ができます。例えば、言語性IQが動作性IQより著しく低い場合、視覚認知能力や視覚と運動を統合する能力、空間認知能力に課題があるとされ、言語性IQが動作性IQより著しく低い場合には、言語表出能力や言語理解能力に課題があるとされていわれています。また、「言語理解」「知覚統合」「注意記憶」「処理速度」の4つの群指数により、学習能力の特徴や指導における留意点を把握することもできます。
[性格検査] 性格検査については非常に種類が多いため、一部を取り上げます。質問紙法では、Y-G検査とMMPIを取り上げます。
Y-G検査は12の下位尺度を設け、各下位尺度ごとに10問計120問の質問項目から構成されています。12の下位尺度は(1)抑うつ性、(2)気分の変化、(3)劣等感、(4)神経質、(5)客観的、(6)協調性、(7)攻撃性、(8)活動的、(9)のんきさ、(10)思考的内向、(11)支配性、(12)社会的内向であり、「はい」「?」「いいえ」の三件法で回答します。結果はプロフィールであらわされ、性格傾向はA型(平均的)、B型(不安的不適応積極型)、C型(安定適応消極型)、D型(安定適応積極型)、E型(不安定不適応消極型)の5種類に分類されています。手軽に実施でき多面的な診断が可能なため広く用いられていますが、被験者の意図的な歪曲に弱いという欠点があります。
MMPIは、精神医学的診断の客観化を目的として開発された質問紙法の性格検査で、 550問の質問項目からなり、「臨床尺度」「妥当性尺度」と「追加尺度」から構成されています。臨床尺度は「心気症」「抑うつ」「ヒステリー」「男性性・女性性」「社会的内向性」など10尺度、妥当性尺度は「疑問尺度」「虚構尺度」など4尺度があり、いずれも「あてはまる」「あてはまらない」の二件法で回答するものです。質問数の多さ、尺度の詳細性において信頼性が高い性格検査の一つですが、質問数が多いため検査に時間がかかることと被験者への負担が大きいのが難点といえます。
投影法検査の代表的なものとして、ロールシャッハ・テストがあります。ロールシャッハ・テストとは、インクのしみを用いた図版を提示し、被験者に何に見えるかを答えてもらい、その答えから被験者が見たものやどの領域をどんな特徴で見たのかを分析することで、外界への関わり方や対処法の特徴を分析します。ロールシャッハ・テスト以外にも、不完全な文に続く言葉を自由に書いてもらい、その内容から被験者の性格傾向を分析していくSCT、描かれた絵の全体的印象、描画配置、筆圧、描線特徴などからパーソナリティや家族関係などを分析していく描画法があり、いずれの検査も幼児から成人までが対象となります。
[発達検査] 発達検査には、津守式、遠城寺式、K式などがあり、津守式と遠城寺式は母親(または、主な養育者)に乳幼児の発達状況をたずね、その結果を整理することにより精神発達の診断をしようとするものです。津守式では発達の過程を、運動・探索・社会・生活習慣・言語の5領域で診断し、遠城寺式は、移動運動・手の運動・基本的習慣・対人関係・発語・言語理解の6領域で診断します。これらの検査は比較的容易にでき、プロフィールが分かりやすいなどのメリットがある反面、養育者が子どもをどれ位きちんとみているかで判断が異なってしまうというデメリットもあります。K式については、対象年齢が新生児から成人までと幅広く、「姿勢・運動領域」「認知・適応領域」「言語・社会領域」の3領域で構成されています。通過年齢ごとに項目整理され、通過項目の数により得点を算出し、発達年齢換算表を用いて全領域または各領域ごとの発達年齢が求められます。
このように、異なった側面をはかる様々な種類の検査があることから、複数の異なる検査を組み合わせ、多面的に情報を得るためにテストバッテリーを組むことが望ましいこともあります。テストバッテリーの組み方には特に決まった方法はありませんが、被験者の状態や目的に応じて選択が必要となります。例えば、ウェクスラー式知能検査とロールシャッハ・テストというように知能と性格という異なった側面を2つの検査からみることで被験者の理解が深まります。バッテリーを組む際には、動作的なテストを言語的なテストの先におこなったり、客観テストを投影テストの先におこなったりと一般的に不安や緊張がおこりにくいテストや、刺激が明確に構成されたテストを先におこなったりします。検査が増えるほど被験者の負担が多くなるため、最小限に絞られることが望まれます。
3) 学校や地域のアセスメント
情報収集の方法として、観察法、面接法といくつか検査を紹介してきましたが、いずれの検査も支援を必要としている子どもをアセスメントするためのものです。しかし、コンサルテーションをおこなうには、子どもの状態をアセスメントするだけでなく、子どもが生活をしている地域や学校の状態をアセスメントする必要もあります。例えば、子どもが在籍している学校がどのような場所に位置しているか、特別支援教育への取り組み姿勢や、学級の雰囲気がどのようなものかなどは学校をアセスメントするための貴重な情報です。また、子どもが生活している地域にどのような機関があり、どのようなサービスが利用できるか等の情報も重要です。コンサルテーションを実施する際には、子どものアセスメントと学校や地域のアセスメントをあわせておこなうことが求められます。
2.なぜアセスメントが必要なのか
教育相談では一人ひとりの個性や能力に応じて援助をおこなうことが大切であるため、アセスメントを通して支援方法を考えることが必要になります。アセスメントがより妥当性の高いものとなるには、収集した情報を機械的に組み合わせていくのではなく、専門的な知識や経験に基づいて行うことになります。また、アセメントの対象者や機関、地域との信頼関係は何よりも大切です。信頼関係のないところでは、本当に大切な話や情報は提示してもらえません。
アセスメントは一度行っても、それが確定したものとはなりません。相談担当者との信頼関係ができることで、インテークではみられなかった様子を見せたり、深い話がでてきたりすることもあります。そのため、担当者は常にアセスメントの妥当性を考えながら支援をすすめていかなくてはなりません。また、他機関を紹介する際にも、アセスメントを紹介先機関に伝えることは大切なことです。的確で分かりやすい情報の提供は、次の機関でのアセスメントに活用され支援の連続性に結びつきます。