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通常の学級に在籍する気になる子どもの理解 1 
-発達障害を中心に-

「発達障害」といわれる学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)、高機能自閉症、アスペルガー障害のある子どもは、知的発達に問題がないか、あっても軽度で、全体的には極端に学力が低いということはありません。通常の学級で学ぶ子どもたちの6.3パーセントの子どもは、こうした障害から生じる困難さを抱えているといわれています。こうしたこともあって、小・中学校の通常の学級から要請されるコンサルテーションには、「発達障害」のある子どもにかかわる場合が多いと考えられています。 


  ここでいう「発達障害」とは学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)、高機能自閉症、アスペルガー障害を指しています。


1.発達障害の特性や障害概念


 発達障害のある子ども達の教育は、小・中学校では徐々に浸透しています。しかし、発達障害の子ども達の抱えている問題は障害として気づかれにくく、子ども達自身の思いとは違って、通常の学級の教育現場では、次のようにとらえられていることも少なくありません。 

  • 学習障害(LD)では 
     やる気がない、怠けている、努力が足りない など 
  • 注意欠陥/多動性障害(ADHD)では
     わがままで勝手な行動をする、しつけができていない など 
  • 高機能自閉症・アスペルガー障害では
     冷たい、硬い、変わった子、わがまま など 
 通常の学級に在籍する子ども一人ひとりの教育的ニーズに応じていくには、子ども達の抱えている困難さについて、理解を深めていくことが必要で、コンサルタントは、まず、子どもの実態把握を担任(コンサルティ)と協働して行うことになります。 

 この際、発達障害がスペクトラム(連続体)であることを、コンサルタントとコンサルティが共有していくことは重要です。スペクトラムであるために、この子ども達は障害として気づかれにくいということがあるからです。 

 発達障害は、

  • それぞれの障害や、健常児との間で明確な区分をすることが困難な場合が少なくありません。 
  • 典型的な事例から非定型な事例までスペクトラムをなしています。 
  • 学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)、高機能自閉症、アスペルガー障害の判断をしっかりしておかないと、適切な支援が困難になります。 
  • スペクトラムであることを念頭に置きながらも、教育の手だてを考えていくためには的確な判断をすることが必要となります。 

 また、発達障害には次のような特徴があるため、見立てや対応が困難になります。

  • 年齢や発達の経過によって状態像が著しく変化します。 
  • 専門機関や医師によって診断が異なることがあります。 
  • 理解不足により誤った対応を受けていることがあります 
  • 二次障害(周囲の環境との相互作用によって引き起こされる状態、例えば不登校など)に陥ることがあります。 

 コンサルテーションに臨むとき、教師(コンサルティ)が気付いている発達障害のある子どもに理解して、教師(コンサルティ)がその特性を理解するための支援を行うことがまず必要になります。そのためには、コンサルタントは、それぞれの障害の特性を理解した上で、子どもの実態を把握する視点をもつことが大切です。


1)学習障害(LD)について

 学習障害(LD)は、次の4つのことで定義されます。 (1)聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するといった基礎的な学習能力のうち、特定の能力の習得と使用に著しい困難がある。(2)上記(1)は全般的な知的発達の遅れによるものではない。(3)他の障害や環境的な要因が直接的なものではない。(4)脳の高次機能障害が背景に推定される。


 基礎的な学習能力の習得と使用に困難のある子どもは、日々の教科学習でもつまずきが現れます。定義で示されている6つの基礎的な学習能力のつまずきの状態には、次のようなことがあります。

聞く:

正確に音を聞き取ることが苦手で、聞き漏らしがある 新しい言葉を覚えるのが苦手である 指示の理解が難しい 


話す:

正確に復唱するのが苦手である
言葉の意味や文法を間違えて使う 筋道を立てて話すことが苦手である 


読む:

文字をぬかしたり、余分な文字を加えたりして読む
行をとばして読む
音読ができても内容が理解できない 


書く:

見たり、聞いたりしながら書くのが苦手である
鏡文字になったり、文字の形が整わなかったりする
マス目や罫線の中におさまるように書けない 


計算する:

大小の判断が難しい
繰り上がり、繰り下がりの計算が苦手である
九九が覚えられない 


推論する:

単位を理解することが難しい
時間、位置、空間を表す言葉の理解が難しい
因果関係の理解が難しい 

2)注意欠陥/多動性障害(ADHD)について

 注意欠陥/多動性障害(ADHD)は、次の3つの症状で定義されます。 

不注意: 注意の持続が困難である
多動性: 過剰な活動や動きがある
衝動性: 衝動のコントロールができない

 

 判断基準は、上記の症状と次の4点になっています。

(1)これらの症状が、その子どもの年齢の発達水準に不釣り合いであること
(2)症状のいくつかが7歳未満に存在し、継続していること
(3)学校や家庭などの2つ以上の場面で存在すること
(4)知的障害や自閉症などが認められないこと


 注意欠陥/多動性障害(ADHD)は、上記した3つの症状がどのように現れているかによって、<不注意優勢型> <多動性-衝動性優勢型> <混合型> の3つのタイプに分けられます。 

3)高機能自閉症について

 自閉症のうち、明らかな知的発達の遅れを伴わないものをいいます。 


 「高機能」は修飾語として「自閉症」に付加されていると考えると分かりやすいかもしれません。「高機能」とは、知能指数(IQ)70以上が一般的な基準で、必ずしも平均より高い能力ということではありません。

 自閉症は3歳以前に発症し、次の3つを基本症状とします。

(1)社会性: 他者との社会的関係の形成の困難さがある
(2)コミュニケーション: 言葉の発達の遅れが見られる
(3)想像力: 興味や関心が狭く特定のものにこだわる

 の3つの領域で、顕著な障害が認められます。
 その他に、感覚の異常、多動などを伴うこともあります。 

4)アスペルガー障害(アスペルガー症候群)について


 アスペルガー障害は、自閉症の基本症状で示した (1)社会性、(3)想像力 の2つの領域で顕著な障害が認められます。しかし、(2)認知や言語の発達などコミュニケーションには問題が少ない点が自閉症と異なります。 


 高機能自閉症、アスペルガー障害とは別に、自閉症スペクトラム、社会性の障害という捉え方があります。この捉え方にも、発達障害を理解していくための大切な視点があり、通常の学級に在籍する気になる子どもの理解に役立ちます。


5)自閉症スペクトラム及び社会性の障害について

 

○自閉症スペクトラムについて

 自閉症スペクトラムは、自閉症、アスペルガー障害、さらにその周辺にあるどちらの定義も満たさない一群を加えた比較的広い概念です。
 自閉症、アスペルガー障害と同様に、①社会性、②コミュニケーション、③想像力の三つの領域のいずれか、もしくは全てに障害があることで定義されます。
 「子どもにある障害の診断名にとらわれるのではなく、自閉症としての支援が役立つ子ども」という視点から、自閉症をスペクトラム(連続体)として捉える考え方です。 


○社会性の障害について


 自閉症、アスペルガー障害、自閉症スペクトラムの子ども達に共通してみられる社会性の障害については、次の3つのグループに分けて捉えることができます。
 
孤立型:比較的重度の自閉症スペクトラムの子どもの幼児期に多い相手が存在しないかのように振る舞う高機能の場合でも、年少時にこういう態度をとる子どももいる

受け身型:
小児期には従順で問題行動が少ない教師や大人から無理な要求をされがちで、ストレスがたまりがちになる 青年期になって際立った変化が起こり、行動に異常が現れる人もいる

積極・奇異型:他者、とくに教師や大人に積極的に接近する何かを要求する時や自分の関心事を、一方的に話す自閉症に見えない高機能の子どもに多い 


 多動や乱暴が目立つ子どもがいる通常の学級では、受け身型の子どもは気付かれにくくなります。担任が学級の子どもを注意深く観察していくことを、コンサルタントは支援していくことが必要です。 


2.発達障害のある子どものアセスメント


 コンサルテーションでは、コンサルティとコンサルタントが協働して、子どもの状態のの特性などから子どもの実態を把握して、それらを基に教育的な対応を考えていきます。この一連の取り組みを、教育的アセスメントといいます。 

 発達障害に焦点を当てた際の教育的アセスメントの手順と対象・方法は、次のようになります。「アセスメントの進め方」一般については、別項で述べられています。


1)アセスメントの手順


教育的アセスメントには三つのステップがあります。 


(1)子どもの実態把握をする

 発達障害のある子どもの実態把握をするためには、次の5つの観点などから、具体的な子どもの教育課題や子どもの特徴を把握します 

  • 知的発達の状況 
  • 教科指導における気付き 
  • 行動上の気付き 
  • コミュニケーションや言葉づかいにおける気付き 
  • 対人関係における気付き 
(2)障害概念に該当するか否かの判断・検討をする
 障害概念に付随する障害特性を考慮することで、教育的配慮、指導、支援、処遇などのポイントが抽出されます。 


(3)具体的な教育的対応を考える

2)アセスメントの対象と方法

  • どもを対象に学習、行動、対人関係、情緒・心理などの観点から、問題行動の背景を考えます。 
  • 子どもを取りまく教育、生活、家庭環境も把握し理解します。 
  • アセスメントの方法には観察、指導、検査、面接、診察があります。
 コンサルティである担任教師の一人の目でなく、公表されているチェックリストを用いて、その学校の特別支援教育コーディネーター等と共に、複数の目で考え、対応していくことを、コンサルタントはアドバイスすることが大切です。 


3.発達障害のある子どもの理解から支援・配慮 へ


 通常の学級のコンサルテーションでは、コンサルタントはコンサルティである担任と共に、発達障害のある子ども達に対して必要な支援や配慮を考えていくことが重要です。
 その場合、コンサルタントはコンサルティに、次のようなメッセージを贈りましょう。

  • 発達障害のある子どもに対する『配慮』が、全ての子どもの『分かりやすさ』につながります。 
  • しっかりした学級経営の基盤があって、はじめて『配慮』が生きてきます。 
  • 学級全体が、子どもの違いを受け入れる集団であるかどうかが、非常に大事です。 

 この発達障害に対する基本的な対応では、次のことが大切です。

  • 障害による困難さを理解する 
  • 時間をかけて、可能なところから改善を図っていく 
  • 支援の必要性に気付き、そこを重視して可能な限り支援を行う

 通常の学級における学校コンサルテーションは、コンサルタントという外部者が、通常の学級に在籍する気になる子どもと、その担任の困っている状況に寄り添っていくことでもあります。コンサルテーションにたずさわるコンサルタントは、子どもを直接的に支援する立場にはありません。丁寧に担任の話に耳を傾けることからスタートして、担任が自分のクラスに在籍する子どもについて理解していくプロセスを共に歩むことで、その担任が子どもの抱える問題を理解していくことに伴走していく謙虚さと忍耐強さをベースにしていきましょう。